Youtubeで自転車ロードレース界を変えた男が語る、ロードレースの未来とは【前編】

オーストラリアのワールドツアー・チーム「オリカ・スコット(現ミッチェルトン・スコット)」。そのオリカを6年間に渡って撮影し、Youtube動画で自転車ロードレース界を変えた男がいる。ムービー・プロデューサーのダン・ジョーンズその人だ。

彼の動画はそれまでの遠巻きに撮影していた広報、レース動画とは全く異なっていた。選手やチームがレース中にも関わらず全面的に撮影に協力し、時にはプライベートな一面まで写した動画は、遊び心とドラマに溢れていた。

残念ながら、彼の動画は2017年に最終回を迎えてしまったが、そのダン・ジョーンズがこれからのロードレースの未来について、興味深い話をしている。

Youtubeで自転車ロードレース界を変えた男が語る、ロードレースの未来とは

*本記事は、許可をいただいた上で転載しております。

原文:「オリカの六年間を撮り続けた映像作家が語る、自転車ロードレースの未来」

2017年のツール・ド・フランス。

圧倒的な力で4度目の優勝を果たしたクリス・フルームの横には、白い新人賞ジャージを身にまとったサイモン・イェーツと、2016年ツールでオリカを救った元チームメイトのマイケル・マシューズが立っていた。

しかし、そんなオリカ選手たちの勇姿を6年に渡り撮影しつづけてきたダン・ジョーンズの姿は、パリではなく、遠く離れたオーストラリアの地にあった。

「実はその時、子どもが生まれるからメルボルンに戻っていたんだ。」「だからもう家を何週間も離れ、チームに帯同することができなくなってしまった。」

彼は子どもの誕生を機にチームを離れ、故郷で家族と時間を過ごすことになった。

「離れることは残念だけど、とても楽しみなんだ。メルボルンで家族と過ごす生活が。」

自転車ロードレース界を変えたYoutube動画

レース前後の選手の様子やチームカー内部を撮影し、厳選された音楽とともにオリカの舞台裏を映した『Backstage Pass』。コアなファンのみならず、広い層にプロ自転車チームの喜怒哀楽を紹介してきた。

ダン・ジョーンズはオリカ・スコットの専属の映像作家になる以前、二本の自転車ロードレースに関するドキュメンタリー作品(2005、2007年)を制作している。その後Fox Sportsに入社し2008~2011年のツールには撮影スタッフとして、2011年にはカデル・エヴァンスに密着し総合優勝を間近で撮影した。

当時、選手との間には大きな溝が

その後、グリーンエッジ・サイクリング(現ミッチェルトン・スコット)設立の準備をしていたオーナーのゲリー・ライアンに声をかけられ、「いままでのチームがやってこなかったことがしたい」という言葉に共感し、自転車チームとしては異例の”専属映像作家”としてチームに加入した。

「その頃は”ランス・アームストロングの件”のせいで、ジャーナリストと選手の間には大きな溝があったんだ。」

「プロトンの中には様々な個性を持った選手がいるのに、それが(ファンに)伝わっていなかった。それを変えたかった。今までとは違うことをしたかったんだ。」

これはエンターテインメント・ビジネスだ

多くのチームが行う選手を”遠巻き”から撮影したものとは違い、ジョーンズの視点は自転車ロードレースのみならず、他のプロスポーツチームの広報映像とも一線を画している。

「とにかく楽しい動画になるように心がけている。僕の作品は必ず ”母や姉” を想定し、自転車レースのことを知らない人たちにも面白い内容になることを心がけているんだ。」

「だから映像にはギヤ比など小難しい出てこない。そもそも僕が興味ないからね。笑」

「オリカvsスカイの五番勝負(2014年)」

レース中継では見ることができない選手たちの表情やキャラクター、チーム内の関係性などが伝わってくる。(まだ幼さが残るゲラント・トーマスやリッチー・ポート、この頃からオリカの中心であった元スカイのマシュー・ヘイマンなど興味深い。

「2016年ジロ・デ・イタリア山岳ステージダイジェスト」

突如ジロ主催者から”レース映像の使用禁止”が言い渡された為、現地でおもちゃを買い込み、選手に模したおもちゃでレース展開を再現した動画。(ニバリが“サメ“で、スカイが”帝国軍”と芸が細かい。)

選手からの信頼が、協力へ

「僕がもし選手の立場だったら、四六時中チームバスの中を撮影されるなんて嫌だと思うし、反対するだろうね。」

「でも選手たちの信頼を得ることができれば、僕が撮影していることの”意味”を理解してくれると思ったんだ。」

実際『Backstage Pass』には、普段は観られないレース直前インタビューや、レース中の選手がカメラに向かって手を振る姿が多く観られる。そういった映像は、選手の個性を引き出し、ファンを獲得する”チームブランディング”として絶大な効果をもたらしている。

だが、同じような試みを他チームは行っていない。あるいは真似をしたくても”できない”と言った方が正しいのかもしれない。

現にスリップストリーム・スポート(現EF・エデュケーションファースト・ドラパック)に密着したドキュメント番組『Blood Sweat and Gears』(2009年)は、チームスタッフの以下のような言葉で終わる。

「君たちはチームと一緒に入れてさぞ”楽しかった”ことだろう。でも僕らはカメラに付きまとわれた”クソな時間”を送らなければならなかったんだ。お願いだ。いますぐそのカメラを止めてくれ。」

つまり、ジョーンズの人間性が選手の心を開かせ、選手との間に「信頼関係」と「撮影がチームにもたらす価値」が十分に共有されているからこそ可能になっている映像なのだ。

その「信頼関係」が動画に現れているのが、自転車ロードレースでは異例の100万回以上再生された “Call Me Maybe” のパロディ動画だ。

着目すべき点は、ブエルタ(グランツール)のレース中にも関わらず”撮影に全面的に協力する選手たち”である。

カメラの横を通り過ぎる選手たちが”電話のポーズ”をし(1:44)、選手にとって晴れの場であるポディウム上でもカメラを見つければポーズをとっている(2:36)。

〜後編は4月25日(水)更新予定〜

ダン・ジョーンズの語る未来とは?

後編を更新しました:Youtubeで自転車ロードレース界を変えた男が語る、ロードレースの未来とは【後編】

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