逃げる王者、追う王者

クリス・フルームの走りの特徴は、軽いギアで極端に高いケイデンス(回転数)を保ち、シッティング(座り漕ぎ)のままペースを上げる走りである。

漫画『弱虫ペダル』の主人公、小野田坂道も軽いギアで驚異的なケイデンスで走る姿を特徴としているが、フルームはまさにそれを現実で再現している選手なのである。

今回も、ここまでのステージではあまり見ることのなかったこの「くるくる走り」で、ポッツォヴィーヴォやサイモン・イェーツなどのライバルたちとの距離を一気に引き離した。

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サイモン・イェーツの猛追

対するサイモン・イェーツも負けてはいない。フルームとのタイム差が15秒に開いた残り3km地点。これ以上逃がしてはならないとばかりに、共に追走を仕掛けていたライバルたちを突き放し、スパートを仕掛けた。

フルームとは対照的に、重いギアでダンシング(立漕ぎ)を多用してその差を詰めにかかるイェーツ。一気にタイム差は10秒を切り、今大会の彼の調子の良さを見せつけた。

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タイム差は5秒、否それ以下か。声をかければ届くような距離にまで迫ったイェーツ。復活した王者も、この新たな時代の王者の前に、敗れ去ってしまうのか、そんな風にも感じられた。

ワウプ・プールスの牽引からゴールまで(2:24〜)

王者、復活

王者は簡単にその座を譲るつもりはなかった。ゴール前500m。勾配16%の最後の難関地点に到達したとき、重いギアのイェーツはペースを落とし、逆に軽いギアで回し続けるフルームはペースを維持し、その差は再び開き始めた。

「王者」の貫禄を見せつける走り。苦しみ続けたフルームは、ついにその両手を天に掲げる機会に恵まれた。

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この日の勝利は、フルームとチーム・スカイによる「反撃」の狼煙のように思われた。まだ3週間の戦いは折り返し地点を過ぎただけであり、ここから3分10秒のタイム差をひっくり返し、マリア・ローザを手に入れることも十分に可能だろう、と。

しかし、翌日の第15ステージ。第2週最後の日に、再びフルームはタイムを失った。

終盤にアシストを失い一人になった彼を、後ろから追い付いてきたプールスが献身的に支えてゴールまで導いたものの、圧勝したサイモン・イェーツに1分30秒以上のタイム差をつけられ、総合成績では5分弱の差。

総合優勝は果てしなく絶望的なものとなった。

サイモン・イェーツ

第15ステージを優勝サイモン・イェーツ 引用:ジロ・デ・イタリア公式ウェブサイト

フルームは魅せてくれるのか

それでも、勝利への執念こそがフルームの最大の魅力。これで挑戦する心を失い、ジロを去るような事態にはならないと信じている。3週目にもまた、彼の見せ場が存在することだろう。

今大会「最強」はヴィヴィアーニとサイモン・イェーツであることは間違いがなさそうだ。
それでも今回のベネットやフルームのように、彼ら「最強」に挑戦する選手たちが第3週にさらに出てくることを楽しみにしている。

第101回ジロ・デ・イタリアも、いよいよクライマックスに突入する。

Text:Tamaki Suzu

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