新旧「王者」の激突
今大会の優勝候補の1人と目されていたクリス・フルーム。
過去5度のグランツール総合優勝を果たしている現役最強のステージレーサーである彼だが、今シーズンここまでの不調を踏襲するかのごとく、このジロ・デ・イタリアでも勝負所では常に遅れ続け、第14ステージ開始時点では首位から3分20秒遅れの総合12位。
ジロでは総合優勝どころか、総合表彰台(総合3位以内)すらも絶望的、と思われていた。
舞台は大会最大の目玉の1つである「地獄の門」モンテ・ゾンコラン頂上フィニッシュとなる第14ステージ。
この日も、フルームは集団最後尾にて今にも千切られそうな姿を見せており、また大きくタイムを失ってしまうのだろうか、と想像させられた。
しかし、実際は違った。この日、フルームとチーム・スカイは、本来の彼らに相応しい走りを見せることとなった。
「最強アシスト」ワウト・プールスが動く
ゴールまで残り10kmから始まるモンテ・ゾンコランの登り。平均勾配12%、最大勾配22%の「ジロ最恐の山」。総合優勝争いに決定的な動きが巻き起こるだろうと予想されていた。
登り始めてから1.5km。クリス・フルームが集団の最後尾付近につけているのが確認された。
以前より、遅れているように見せて、実際にはマイペースに登りいつの間にか先頭付近にいる、ということの多い彼だが、今大会のここまでの様子を踏まえると、この日もまた、不調が続いているのだろうか、と不安に思う姿だった。
しかし、この日はこれまでと違った様子が見られることに。ゴールまで7km、登り始めてから3kmの地点で、メイン集団の先頭にフルームのチームメートであるワウト・プールスが姿を現した。
彼が前を牽くということは、すなわち「この集団はスカイがコントロールし、最終的にはエースのフルームが勝負を仕掛ける」という宣言に他ならなかった。
これに呼応するかのようにフルームもそのポジションを上げ、ついに集団先頭プールスの背後についた。
マリア・ローザのサイモン・イェーツもこの動きを警戒し、フルームの背後に陣取る。
ワウト・プールスは2015年にチーム・スカイに加入、今年31歳になるオランダ人。これまでもクリス・フルームのツール・ド・フランスやブエルタ・ア・エスパーニャ総合優勝を支え続けてきた名アシストの1人である。
そんな彼が先頭に出たことで、集団のペースは一気に上がり、ファビオ・アルやダヴィデ・フォルモロなどの実力者が次々と脱落し、トム・デュムランも集団後方で苦しい走りを強いられた。
「最強チーム」スカイの、「いつもの姿」が復活した。
そして、残り4km地点。ついに、フルームが「発車」した。