優勝トロフィーも石畳??

「Hell of the North」とも称される、この石畳のレースを制したチャンピオンに与えられるのは「石畳の石トロフィー」だ。

どこまで石畳が好きなんだ、とツッコミたくなるほどの石畳愛を感じられる。

ちなみにこの石トロフィーは1977年に生まれたアイディア。そして、2002年以降はルーベから30km程の町「Orchies(オルシ)」にある石工店「Slosse Marbrerie」が石の調達からトロフィーの製造を行なっているそうだ。

本当の「石」でできた、「100%石」のトロフィーは、もちろん重い。

約12kgほどと言われており、おそらくロードレースの優勝トロフィーの中でも最も重いトロフィーだろう。フランス国外に住む選手が優勝した場合は、自宅に持ち帰る際の飛行機で追加料金を要求されるほどの代物だ。

250kmの内、石畳は50km

石畳を行くレースとは言ったものの、250kmが全て石畳という訳ではない。「パリ〜ルーベ」では「石畳セクター」(Cobbled SectorsまたはPavé Sectors)と呼ばれる石畳区間が、コース各所に約30箇所ほど設定されている。

そして各セクターは過酷さの程度を表す「5つ星」によってランク付けされている。「5つ星」のセクターが最も過酷なセクター、と言った具合だ。300m程のものから3.5km程のセクターまでがあり、距離が長いほど星の数も多くなる傾向にある。

Paris-Roubaix 2019 パリ〜ルーベ 石畳

フィニッシュは競輪場で

石畳が代名詞である「パリ〜ルーベ」。しかしその特徴はもう1つある。レースのフィニッシュ地点が自転車競技場であることだ。

通常のロードレースではコースとなる公道にフィニッシュラインとアーチを造り、そこへめがけて選手たちが最後の力を振り絞って飛び込んでくる。

しかし「パリ〜ルーベ」では、公道に引かれたフィニッシュラインではなく、「Vélodrome André-Pétrieux」という屋外自転車競技場(ベロドローム)に引かれているラインがレースの順位を決定する最終地点となっている。この自転車競技場は通称「ルーベ・ベロドローム」と呼ばれている。

ルーベの町に到着した選手は、町の名を冠した最終石畳セクター「Roubaix」(300m)を通り抜け、そのまま1周500mの自転車競技場内へやって来る。ちょうどフィニッシュラインの反対側から入場した後、残りトラック1周半(750m)が残されている状態。

通常、1本道でスプリント合戦が始まるその他のロードレースとは異なり、円形のスタジアムで競輪のようなスプリント合戦が繰り広げられる。最後の100mまでお互い見合う駆け引き戦になることも往々にしてあることだ。

大人数の選手達であればスタジアムに入った瞬間に、少数の選手達であればお互い牽制しながら残り半周ほどから、トラックを囲む観客の目の前でスプリント合戦が繰り広げられる。

ロードレースが一瞬にしてトラック競技に変わったような、独特の緊張感を味わえるクライマックスが最後に用意されているのだ。

他のレースにはない、特別なドキドキ感を楽しめること間違いなしだ。

辿り着いた者だけを祝福する「聖水」

「パリ〜ルーベ」の特徴。それは石畳とベロドローム…、だけではない。もう1つの名物、それは「シャワー」だ。

フィニッシュ地点のルーベ・ベロドロームに併設された建物の中には、小さなシャワールームがある。それも日本の銭湯を彷彿とさせるようなレトロな造りのものだ。

たいして特別な設備が整っている訳でもないシャワールームだが、1940年代にルーベ・ベロドロームがフィニッシュ地点とされてから、過酷なレースを完走した選手たちを癒してきた、まさに「オアシス」なのだ。

Paris-Roubaix 2021 パリ〜ルーベ AG2R

しかも、「パリ〜ルーベ」が雨天時に開催されると、ダートな道が多いため、誰が誰だか分からなくなるほど選手達は泥で汚れてしまう。そんな汚れも疲れも全て洗い流してきたのが、このシャワールームなのだ。

Paris-Roubaix 2021 パリ〜ルーベ シャワー

さらにこのシャワールームが一種の名物になり、「レース優勝者はその名前の書かれたパネルを、各シャワーを隔てる壁に取り付けることができる」という伝統も生まれた。

過酷なレースを制した証として歴代の選手達とともに、殿堂入りされる場所となっているのだ。

しかしそんな伝統があるものの、近年ではより快適で設備の整ったチームバスの登場によって、この質素なシャワールームを使う選手は減ってきているそうだ。

2019年の「パリ〜ルーベ」優勝者のフィリップ・ジルベールも、そんな「現代っ子」になるところだったと言う。

初の「パリ〜ルーベ」に出場し完走を果たした2007年のレース終了後、彼はチームメイトとともにチームバスへ向かった。しかし、2021年現在でも同チームディレクターを務めるフランスの重鎮、マルク・マディオが、チームの選手全員にベロドロームのシャワーを浴びるよう命令したそうだ。

ジルベールは、そのおかげで優勝した2019年に歴史を感じながら、その歴史の一部となれたことを深く実感できたと語っている。

たかがシャワー、されどシャワー。2022年の今大会もそんなエピソードが聞けることを期待したい。

参照:VeloNews CyclingWeekly

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